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後見制度とは
精神上の理由(認知症など)により判断能力が不十分な人は、財産の管理や各種の契約を自分で間違わずに行うことが困難です。その人に代わって、そのような重要な事項を行うことを後見といいます。
後見には、未成年後見、成年後見、任意後見の3種類があります。
未成年者の場合は、親が監護養育するのが通常ですが、親がいない場合、あるいは、いても重い病気であったり遠方にいるような場合に、未成年後見人が選任されて、親の代わりをつとめます。
成年後見の制度は、判断能力の不十分さの程度に応じて、後見、保佐、補助の3種類に分かれます。判断能力を常に欠く人を対象とするのが後見、判断能力が著しく不十分な人を対象とするのが保佐、判断能力が不十分な人を対象とするのが補助です。
これら判断能力の不十分な人を支援する人を後見人、保佐人、補助人といい、家庭裁判所が職権で選びます。職権で、というのは、親族や知人など関係者の意見に左右されることなく、支援を受ける人の心身の状態や財産状況、支援を行う人との利害関係などを、家庭裁判所が考慮し判断するということです。
そのため、多くの場合、支援を受ける人と利害関係のない第三者の専門家、具体的には、弁護士、司法書士などが選任されます。親族は、他の親族とのバランスや遺産相続の問題が絡んでくることが多いため、あまり選ばれません。
つまり、支援を受ける人や親族の希望通りに支援する人が選ばれるとは限らず、全く知らない人が後見人、保佐人あるいは補助人としてやって来るかもしれません。
なお、後見人、保佐人、補助人には、法人(NPOや企業)や外国人もなることができます。
民法改正(令和8年6月24日公布)成年後見と保佐の廃止
成年後見の制度は、自分が誰だか何処にいるのか分からなくなってしまったような、重篤な精神障害を負った人を想定して設計させており、後見人に包括的な代理権・取消権が与えられています。これは逆にいうと、一旦、成年後見制度が始まってしまうと、本人は死ぬまで世間から幼児のように扱われ、実質的に、何もできなくなってしまうということを意味します。
現行制度は、本当に重篤な精神障害を負った人の財産や生活を守るためには有用かもしれませんが、そこまで重篤ではない人や症状が改善してきた人にとっては、必要以上に自己決定の権利が制限されることなります。2022年に国連障害者権利委員会から、このように一律に権利を制限することは、人権侵害にあたると指摘されたことを契機に、成年後見制度の見直しが進められました。
その結果、令和8年(2026年)6月24日公布され、公布から2年6ケ月以内に施行される改正民法において、成年後見制度は抜本的に改正され、民法から成年後見と保佐が無くなり、補助だけになります。
補助とは
補助の制度は、従来の禁治産・準禁治産制度に代わり、新たな成年後見制度として、後見・保佐と共に2000年から施行されています。
成年後見は、上述のように、後見人に一律に広範な代理権・取消権を与える制度ですが、補助は、支援を受ける本人の心身の状態や財産状況を、家庭裁判所が個別に審査し、特定の行為についてのみ、補助人の同意を必要とする制度です。
補助人は、本人が同意を得なければしてはいけない行為を、同意を得ずに行った場合にのみ、取消権を行使することができます。
また、補助人には、後見人と違い、支援を受ける本人を代理する権限は、与えられていません。ただし、本人や親族等の要請によって、家庭裁判所は特定の行為に関してのみ、補助人に代理権を付与することができます。
補助は、もともとこのようにテイラーメイドな制度ですが、令和8年6月24日公布の改正民法においても、本人にとって必要な範囲や期間に限定して利用できる制度として、従来の本質を維持しています。
任意後見制度
任意後見は、精神上の理由により判断能力が不十分な人の生活・財産管理を支援する制度です。任意後見開始の要件は、補助と同じく、精神上の理由により判断能力が不十分になったときです。
ある人が認知症にかかり、今はまだ物忘れが多いくらいですが、徐々に判断力も無くなっていくだろうと医者から言われています。できれば、家族に世話をしてもらいたいですが、夫は既に亡くなり、息子も娘もそれぞれ結婚して遠方に住んでいます。もしかすると、来年の今頃には、家賃やデイサービスの費用を自分で払ったり、銀行で手続きすることが出来なくなっているかもしれません。
成年後見・保佐・補助の制度を利用した場合、家庭裁判所が全然知らない弁護士さんなどを後見人・保佐人・補助人に指定するかもしれません。実務に精通した専門家とはいえ、全然知らない人に全てを託すのは心細い気もします。仕事は堅実でも人間的に合わない人が選ばれるかもしれません。
任意後見制度は、この問題に対する回答として、成年後見・保佐・補助の制度が出来たのと同じ2000年に、成年後見・保佐・補助を補う制度として創設されました。 任意後見制度は、民法の中に規定が置かれず、任意後見契約に関する法律という独立した法律で規定されています。
この制度では、後見人になる人を、後見を受けることになる人が選んで、両者の間で合意契約を結ぶことで、将来の後見人を自分の知っている人に定めることができます。
上述の認知症の例では、例えば、姉(故人)の娘(本人の姪)が隣の町に住んでいて、気心も知れているので、姪にお願いして将来の後見人になってもらえないかと考えたとします。その場合に姪御さんと結ぶ契約を任意後見契約といいます。将来、後見が開始されるまでの姪御さんの立場を任意後見受任者といい、後見が開始されたら任意後見人になります。
任意後見契約は公正証書にしなければならない
任意後見制度の後見人は、成年後見制度の後見人と同様、後見人に代理権を付与する制度です。
ただし、成年後見の後見人のように、一律に包括的な代理権が与えられるのではなく、代理権が与えられる行為は、本人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務に関するものであって、任意後見契約の中で具体的に特定されたものに限ります。
ところで、代理権という重要な権限は、成年後見制度であれば、家庭裁判所のみが後見人に付与することができますが、任意後見の場合は、任意後見契約という私人(しじん)間の契約によって、将来の後見人に代理権を与える約束をすることになります。
このような、本人の生活や財産に関する重要な契約の内容を、当事者だけに任せてしまうことは時に非常に危険でもあり、その契約の内容は、慎重に検討されなければなりません。
そのため、任意後見契約は、公正証書にしなければならないことが義務付けられています。公正証書とは、簡単にいうと、公証人(法律の専門家で、特別の資格を持った公務員)が、そこに書かれている合意内容は真実かつ適正・適法であると保証した文書のことです。
任意後見契約は、次のようにして公正証書化されます。
まず、任意後見を受けることになる人と後見人になる予定の人が、相談して任意後見契約の原案を作ります。次に、公証人が原案の内容を読んで、後見人が行うことになる財産管理などの対象や範囲が明確にされているか、取決めの内容が現実的で適法かを確認し、適宜修正を加えます。そうして出来た最終案を文書化し、公証役場に両当事者を呼んで直接面談し、二人が契約内容を完全に理解し合意していることを確認して、任意後見契約公正証書を完成させるのです。
任意後見監督人
任意後見契約公正証書の作成時には、本人はまだ十分な判断能力があるので、任意後見が実際に開始されるのは、本人の判断能力に問題が現れ始めるときまで待つことになります。そのような時がついに到来したら、任意後見受任者や親族は、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を請求しなければなりません。
そして、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されると、その時点で、はじめて任意後見契約の効力が発生します。
任意後見監督人とは、任意後見人を監督する人のことで、通常、成年後見人に選任されるような、本人や任意後見人と利害関係のない第三者の専門家が選任されます。任意後見人は、多くの場合、本人と親しい間柄ではあっても法律や財務の専門的な知識を持っていない人がほとんどです。そこで、専門家に任意後見人を監督せることによって、財産の管理などにおける任意後見人のミスを防ぎ、間接的に本人の保護を図る仕組みです。
民法改正(令和8年6月24日公布)が任意後見制度に及ぼす影響
上述のとおり、令和8年6月24日に公布され、公布から2年6ケ月以内に施行される改正民法によって、成年後見と保佐が廃止され、支援を受ける本人の自己決定権を重視する補助制度に一本化されることを受け、任意後見契約に関する法律も少し改正されます。
重要な改正点は、次の二つです。
まず、従来は必ず選任されなければならなかった任意後見監督人は、家庭裁判所が明らかに不要で、家庭裁判所による監督のみで十分と判断したときには、選任しなくてもよくなります。
次に、民法に規定される補助は法定後見制度であるため、任意後見に優先するので、家庭裁判所が補助開始の審判をすると任意後見は終了させられたのが、改正後は補助と任意後見の併存が可能になります。
任意後見契約の利用者
任意後見契約の委任者(任意後見人を依頼したい人)は、意思能力(判断能力)があれば、基本的に誰でもなれます。任意後見人(後見が開始される前は任意後見受任者と呼ばれます)も成年で意思能力があれば、破産者などは別として、基本的に誰でもなれます。法人や外国人でもなれることは、冒頭にも書きました。
ほとんど誰とでも締結できるので、任意後見契約は、家族・親族の間でも、友人・知人との間でも、高齢者や障碍者の方と介護福祉施設や弁護士、税理士といった専門家との間でも締結することができます。
そして、当然のことながら、事実婚や同性婚のパートナー同士で締結できます。
渋谷区条例
同性婚(パートナーシップ契約)のページにも書きましたが、東京都渋谷区は、2015年に「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」を制定し、LGBTQ+の人たちの事実婚を支援するため、パートナーシップ証明書の発行を始めました。パートナーシップ証明書とは、この証明書を保持するカップルに対して、婚姻と同じようなパートナー関係を区が認めるものです。
この条例は、2024年に名称と内容を改訂して、「渋谷区人権を尊重し差別をなくす社会を推進する条例」になりました。この新しい条例では、LGBTQ+の人たちの事実婚のためのパートナーシップ証明書発行は従来通りですが、そこから更に差別を無くすべき対象を広げて、男女や性のありように関してだけではなく、人種、国籍、信条、障害、年齢、出身地、経歴等による偏見や差別を失くし、様々な多様性に関する理解と支援を推進することをも目的に含めています。
パートナーの権利義務を法律婚の夫婦の権利義務に近づけるために
事実婚や同性婚を選択したカップルにとって、現在の日本の法律では、パートナー(事実上の配偶者)は単なる他人に過ぎません。
生物学上の異性間による事実婚の場合は、事実婚(夫婦別姓)のページにも書いたとおり、内縁関係保護に関する長年の裁判例の積み重ねや、実子がいれば、子に対する親権や扶養義務を介しての繋がりによって、法的にも、全くの他人とはいえない関係が認められます。しかし、同性婚の場合は、裁判例の積み重ねもまだ少なく、ほぼ全くの他人同士として扱われてしまいます。
お互いに元気なうちはともかく、パートナーに介護療養が必要になったときに、パートナーに代わって介護施設やデイサービスと契約したり、パートナー名義の不動産の管理を代行することは、いくら愛し合っていて長年一緒に生活を共にしていても、法律上の赤の他人には、することが認められません。
これらの老後の、あるいは病気になったときの世話を、お互いにすることを(万能ではないですが一定の範囲内で)可能にするのが、任意後見契約です。上述の渋谷区条例では、パートナー同士が相互に任意後見契約を結ぶことをパートナーシップ証明書の発行の条件としています。
任意後見契約の限界
上記の説明で、カッコ付きで、万能ではないですが一定の範囲内で、と書きました。
たとえ公正証書化されていたとしても、配偶者や親族にしかできない重大な決定、例えば、失敗したら死亡するかもしれないような大手術に対する同意といったことは、病院がパートナーの同意だけで充分と認めてくれるかどうかは不明です。
未だ社会的なコンセンサスが確立していない以上、病院としても、後になって親族からクレームが入ることを心配しないわけにはいかないのが現状です。
それでも契約として文書化し公正証書化して、自分たちの意思をはっきり示せるように備えておくことはとても大切です。多くの事例、裁判例をこれから積み重ねていくことにより、例えば、労働者災害補償保険法が、「事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」を労災保険金の受取人に含めた(同法第11条ほか)ように、同性パートナーの権利も徐々に法的に認められるようになっていってほしいと思います。